株式会社KMユナイテッド
1月28日、安倍首相の施政方針演説の「1億総活躍」の冒頭、社名には触れなかったが、女性が活躍する好例として紹介された企業が今回の株式会社KMユナイテッドです。
塗装業界の現場就業者に占める女性職人の割合は3%に満たないとされるが(株)KMユナイテッドは40人の内約20%の10人が女性です。今春も6人採用予定の半分が女性です。
職人の世界は、「技は見て盗め」が常識。そんな業界の常識も、今や塗り替えられてきています。
塗装会社大手(株)竹延のグループ企業である(株)KMユナイテッドは、職人の育成を目的に作られた会社です。
関西塗装業界での一流ベテラン職人(職人歴59年のFさんは瑞宝単光章叙勲)を指導者として再雇用し、マンツーマンに近い形で指導にあたり、未経験者でもプロの職人に育て上げるという独自の育成プログラムを作り上げました。
その結果、女性でもわずか4年目で現場の職長になれるほどのスキルを身につけたり、多様な人財が活躍できる場所となっています。
職人の多い塗装業界にとって奇跡ともいえる様々な改革は国や団体から多くの表彰を受けたことでもわかるように大きな成果となりました。
※“働き方改革“関連表彰3冠達成!
2018年厚生労働大臣表彰「グッドキャリア企業アワード・大賞受賞」
2017年厚生労働大臣表彰「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰・最優秀賞受賞」
2016年経済産業大臣表彰「新・ダイバーシティ経営企業100選」
一億総活躍社会が実現される『人財育成プログラム』。経験を積みながら、着実にステップアップ出来るプログラムの内容や導入の背景、人材の活躍状況について、株式会社KMユナイテッド 執行役員 人財育成責任者 倉田真由美様にお話を伺いました。
職人は『背中を見て学べ』の世界
オオサカジン編集部:KMユナイテッドが設立された経緯を教えてください。
リーマンショックの影響で、建築業界全体が縮小、親会社の(株)竹延もどん底の状態に陥りました。業界全体が先細りしていく上に、職人の世界は「見て学べの世界」のため、人が育たず人手不足…。これでは業界自体が消えていく。代表の竹延幸雄は相当の危機感を持ちました。
一人前の職人を育てるには、全てやっていては10年かかるのでいかに短期間で育て上げるか。現場作業を分析してみると、ペンキ塗りの出来栄えは職人の腕によるところが大きいが、パテや下塗りの前工程は比較的容易に習得できることが分かりました。全く他業界から来た社長の竹延だからできたんだと思います。そこで職人育成、人財育成を目的に当社が設立されました。
未経験者や年齢性別、国籍を問わない積極採用を行い、独自の人財育成プログラムを構築しています。
オオサカジン編集部:育成プログラムは、どのような内容なのですか?
独自の育成プログラムは、作業を細分化し、特化した仕事に集中させ、教えて教えて教えて育てることで、未経験者でもしっかりと育つことができるプログラムとなっています。
最初は、ベテランインストラクターによるマンツーマンでの下処理の積み重ねです。入社前研修を行い、「富士教育訓練センター」(運営主体は職業訓練法人全国建設産業教育訓練協会)という静岡県にある施設での研修も合わせ、左官基礎を学びます。その後、経験を積み、塗ることを許されたサブインストラクターとなり…と段階を踏むようになっています。
指導方法も、現場での実践だけでなく、テレワークやiPadなどを見ながらの技能習得も行っています。いかに短期間で習得するかです。これらの習得方法が導入されたため、当初は3年かかるとされていた技術習得が、最短1年半で出来るようになっています。
富士教育訓練センターでは、同じ建設業界に携わる他社の仲間に出会えることができるので、いい刺激になっているようですよ。
オオサカジン編集部:育成プログラムの構築だけでなく、動画での技能公開も行ったのはなぜなのでしょうか?
自社だけの技能としてしまうと、建築業として、日本としての職人の技能が途絶えてしまいます。まずは技を「記録する、残す」ということが目的でした。技能伝承ですね。
その後、全国区で技能伝承が課題とされていたので、いつでもどこでも動画アプリ「技ログ」としてスマホで一流との違いを誰でも見ることができるようにしました。動画を見ることで、トップクラスの職人技だけでなく、その職人さんがどんな道具を使っているのかも知る事ができ、それを購入できるオンラインショップ「ペイントナビ」までオープンするようになりました。
建築関係の職人の世界は、技を隠し、下に教えるということがなく、技能の伝承が出来ない社会でした。しかし、動画によって技能伝承が可能になりました。さらに、高齢化に伴い現場に入れなくなったトップクラスの職人も、技能の伝承者・指導者として再雇用につながっています。
ただ今まで『教える』ということをしてこなかったので、最初は教え方がわからない苦労もあったようです。
しかし若い方に技能を教える事で皆さんはますます元気になったという副産物もありましたね。
一億総活躍社会の実現
オオサカジン編集部:女性の方がたくさん働いていらっしゃいますね。女性が建築現場に入ることによって、どんなことが変わっていきましたか?
体のつくりがそもそも違う男性と女性は、建築現場で作業できる範囲も法律によって定められています。ですので作業をデータ化し、体力面・法律面で見た時に女性に出来ること、出来ないことを分けました。その中で出来ることを行っています。業界では珍しい女性更衣室の設置などの労働環境整備も行いました。
さらに女性の声から塗料を水性塗料へ完全に切り替えました。塗料が身体に及ぼす影響を考えてのことでした。水性塗料に切り替えたことで、従来は臭いが出るため夜間が中心であった作業が水性塗料に切り替えたことで、日中も作業が可能になりました。
この事でコストが60%カットされ、結果として従来の3倍近い生産性の向上にも繋がっています。
*女性活用による塗料の話は、今年1月28日の安倍首相の施政方針演説の「1億総活躍」の好事例として演説の冒頭に取り上げられました。
女性はセンスがあり、手先が器用です。そして、根性が座っています(笑)
もともとは、働きたくても育児などで働けない方や外国人などいわゆる労働弱者にターゲットをあて、採用をスタートしました。しかし、建築現場でイキイキと働く女性職人の姿が、自らの将来像としての魅力を感じ、興味を持ってくれる女性の方が増えていきました。
今後も、『人財育成プログラム』でプロ職人を育て上げていきます!
昨年から始まった大阪万博「太陽の塔」内部の一般公開が始まり大変好評ですが、塔の内部を塗り直す作業を請け負ったのは弊社ですが、その職長である現場責任者も29歳の女性なんですね。(編集部一同驚き)
職人業界も業務を「見える化」し、可能な範囲で若い人材を積極的に登用する。
ベテラン社員と融合する風土が整っていれば、未経験や年齢、性別、国籍など関係なく、一人ひとりが活躍できる職場となるのでしょう。
一億総活躍社会の実現とは大上段で構えず、今回の(株)KMユナイテッド様がその見本を示していると思いました。
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